恩師

鈴木功 先生 「退職して〜雑感〜」

平成21年9月退職、食品化学工学研究室(現食品生命工学研究室)所属

 朝早く起きた日は、家の近くにある欅の街路樹に沿って散歩することにしている。大学に在籍中にも時々は歩いたが、退職してからは時間にも余裕ができたので医者の勧めもあり頻繁に散歩するようになった。今年の連休は晴天が続いたので欅の木陰はすがすがしく、気持ちが良かったこともあり長く続いている。生活が不規則になりがちなので、一日のリズムを整えるには効果があるようだ。

 私は企業の研究開発部門に28年勤務した後、日大に転職して約16年間勤め定年で退職した。この間、食品化学工学研究室からは300名を越す多くの学生 が卒業していった。現在、卒業生は社会の中堅として活躍している人が多いが、中には企業を起こした人や家庭で子育てに奮闘している母親などいろいろである。

 企業の研究機関では企業が目的としている成果を常に求められる。大学は教育研究機関であるから、研究の成果を整理して学生に判りやすく教えることが仕事で あり大きな違いである。大学では学生と常に接しているので、学生から大きな刺激を受けたことが長く続けられた源になったと感謝している。

 就職指導を担当したことがあり、学部や学科全体について見る機会があった。この間最も感じたことは、本人達は余り気がついていないようであるが、当学科に は潜在的に相当な能力を持っている学生が多いことである。全科目では成績が余り良くない中に、特定の科目に才能を持っている学生が多くいた。更に授業科目 は普通であるが、妙に説得力がある話し方をするとか、飲み会ではスターになるとか、書道の達人であるとか、何かに特異な才能を持っている人も多くいた。4年間の中で専門を身につけるとともに、早く自分の長所を見出して活かして欲しいと願っていたのであるが、社会に出てから才能を開花させた人も多い。日大は 大きな大学であるから、いろいろな才能を持った学生がいることが特徴であったと思っている。
自分の能力は自分ではなかなか判らないものである。グループの中にあって能力が発揮されることもあり、また友人からの一言で気がつくこともあるし、将来に わたって生かしてくれるのも友人が多い。眠っている能力を掘り起こす方法の1つに旅があると思う。私の場合は今思い起こすと、高校時代に友達と2人で小樽 へ行ったことがきっかけで自信がつき物事の見方が変ったように思える。その当時伊藤整の小説を夢中で読んでいたこともあり、著者の出身地である小樽へ行 き、駅裏から小樽高商への坂を登ったりした。その旅行の中で倶知安の駅では毛蟹を茹でており、たまたま乗り合わせた隣のおじさんがホームへ降りて買いに行 き、学生さんここの蟹はおいしいよといって奢ってくれた。

 また、大学に入学してから九州を約1ヶ月間周遊したとき、日大生と知るといろいろな所でご馳走になり、親切にしてもらったことが記憶に残っている。若い者 に旅をさせろとは、若いときは感受性が強く吸収力が大きいからであろう。旅ではいろいろなことを経験する。楽しいことばかりとは限らないが、自分を見つめ る良い機会になると同時に世間の暖かさも教えられる。卒業旅行はグループが多いようであるが、最近は多様化しているように思う。工夫をして計画し、単なる 思い出作りというよりは、いろいろなことを経験して将来への糧を何かつかんでいるように思える。

 私の研究室では卒業論文の中間発表会を軽井沢で行うことが多かった。そこで皆が教室とは異なった一面を見せてくれ楽しかった。もっといろいろと学生と接す る機会を作るべきであったと少し後悔している。3月には多くの卒業生の前で最終講義をさせてもらい、久しぶりに親しく話ができた。そこの場で、転職して教員になりほんとうに良かったと一瞬胸が熱くなるのを覚え、その余韻が今も残っている。現在、単行本の執筆に取り掛かったところであるが、一人で一冊の本を 全部書くことは初めてのことであり、書き始めてみて事の大変さを感じているこの頃である。最後までぜひやり遂げたいと思っている。
    

平成22年5月 鈴木 功

  
  
  
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